フリック・コレクション
NYを代表するよく知られた美術館なのであるが、でも世界で最も魅力的な中小規模の個人コレクション、ともいえる存在なので(しかもオールドマスター!)ある。
ここはアメリカの鉄鋼&鉄道王ヘンリー・フリック(1849-1919)の残したコレクションを、彼が実際に住んでいた邸宅(1913-14、キャレール&ヘイスティングス建築事務所作)で展示する、いわば個人美術館である(1935開館)。
この美術館の持ち味は、20世紀初頭の富豪の豪華で落着いた邸宅に氏が飾っていた通りの順で(年代流派別ではなく)作品が展示されていることと、そして何よりも、収蔵品がルネサンスから印象派までどれも一級の名作揃いである、ということである。
フリックより数多くの作品を有する美術館はいくらでもありますが、フリックほど名作しか持っていない=駄作のない美術館は世界広しといえどもない、と言ってよいであろう。フリック氏に敬意を表し、展示順に従って作品を見てみる。
エントランスホールを抜けた階段前がサウスホールで、早速ここに2枚のフェルメールの室内画がゴヤの肖像を挟んで展示されている。ゴヤの凛とした《オスーナ公の肖像》に注目したいと思う。ゴヤらしからぬジェントルマンな雰囲気と、背景の濃いエメラルドブルーの神秘的な色調は、実物を見てこそ味わえる贅沢である。
サウスホールを抜けるとリヴィングホールである。ここはジョヴァンニ・ベッリーニの傑作《荒野の聖フランチェスコ》をメインに、その周囲にティツィアーノやホルバインらの南北ルネサンスの半身像の肖像画が配されている。しかしこのベッリーニは素晴らしい。
背景の動植物の細やかな描写(遠くに羊飼いと羊の群れがいる)、岩肌の硬質な光沢感、そしてドイツ人のイタリアに対する憧れが分かったような気になる、空の澄みきった深い青、描かれたアッシジの聖フランチェスコは荒野で修行中に神から聖痕を授かるのですが、ここでは聖なる存在の具体的描写は何一つなく、僅かに左上の空に黄金の光が走り、木の葉がそれを反映しているに過ぎません(これらの神学的解釈については諸説ある)。
画家が描いたのは、羊が草を食みロバが佇むアペニン山中ののどかな風景の中で天を見つめて立つ一人の人間の姿なのである。リヴィングホールからノースホールを抜けると、館内で一番広いウェストギャラリーに出る。
フリックの独自の絵の並べ方がはっきりと見て取れる展示室で、それは一見脈絡なく並べているように見えますが、ちゃんとトリックがあるのである。つまり、ここでの基本的アイデアは風景(海景)画と肖像画を交互に並べる、というシンプルなものである。
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